導入事例  
豊洲市場・渡辺商店 ※みなと新聞 2020年1月20日掲載

元気印の仲卸訪問(5)
~ITで業務改革~

寿司や天ぷらの種となる特種物は相場や種類、規格が日々変動する。飲食店の細かな需要に応えるには熟練の目利きが必要だ。豊洲市場(東京都江東区)仲卸、渡辺商店(渡辺幸雄社長)は各社員が担当魚種を持ち、一人一人が責任を持って仕入れ販売を行う。
業務効率化のため、同社は東新システムの「いちばクラウド魚問屋」を導入。コスト削減や社内の情報共有の強化、働き方改革などに役立てる。渡辺社長に導入の経緯や成果を聞いた。


モバイル端末活用し情報共有。
クラウドシステムで働き方改革。


渡辺商店は貝専門の仲卸。営業4人に加え、配達、帳場など合わせて計15人体制で営業する。年間で扱う貝の種類は「およそ50種類」(渡辺社長)。都内の飲食店やホテルに供給する他、電子商取引(EC)サイトでの販売や小売店舗の運営など、さまざまな業態を通じて商品を販売している。それだけに発行する伝票の種類と量は相当なものだったという。

「いちばクラウド魚問屋」は導入企業のニーズに合わせ、売掛、買掛管理から鮮魚・冷凍・塩干・ねり・マグロなど品目ごとに異なる在庫管理、帳場での売り上げ入力や伝票発行処理もできる市場専用のシステム。専門ノウハウを持つスタッフが、業務改善提案からシステム導入までサポートする。

残品・利益率を見える化。分析しないとわからなかった部分が、
誰でもすぐに見られるようになった。


新システム導入のきっかけは、豊洲市場の開場が決まったことだ。旧築地市場から2キロほど離れ、アクセス手段も限られる豊洲では「足を運ぶ人が減るかもしれない」(渡辺社長)と危機意識を持ったという。「これからの商売は電話やSNSを使ったやりとりが増える」のを見越し、いつどんな要求が来ても対応できるよう、クラウドシステムを活用したフルオープンな経営にかじを切った。

新システムが稼働したのは2019年夏。事務所に1台、帳場に2台の端末を配置した他、営業担当者には各自1台ずつモバイルノートPCを配布。さらに社長用にはiPadを用意し、売り上げ管理・請求書発行、仕入れ管理に加え、日々の数合わせと損益管理を運用している。「日々の残品や利益率など、今まで分析しないとわからなかった部分が誰でもすぐに見られるようになった」と渡辺社長は効果を話す。

貝だけでなく、季節によって白子や魚卵、鮮魚なども販売する同社。取り扱いは多品種に及び、システム導入時のマスタ(入力項目、分類)作成に悩むことが多かったが、市場専門のエンジニアによるきめ細かなサポートで商品マスタを構築した。

拘束時間短縮へ。
個々のペース尊重。


システムの導入後は税理士へ提出する書類作成がスムーズになっただけでなく、「従業員の拘束時間が減った」(同)。伝票や納品書を手書きで作成していた以前は「スペースの都合上、限られた範囲でしか作業ができなかった」が、現在はモバイル端末を使ってどこからでも入力できるため「いったん休憩を取ったり、自宅に帰って入力したりなどそれぞれのペースで自分の仕事の管理ができるようになった」という。

仲卸にとって買出人が訪れる午前6~8時の時間帯は特に忙しい。商品の販売量や売価を担当が責任を持ってコントロールする半面、「この貝は今取り扱っているか?」「ハマグリは今いくら?」といった問い合わせがあると担当者が手を止めて対応しなければならない場面もあった。

しかし、システムを通じて商品ごとの大相場や入荷量などの情報を共有できるようになったため、「ちょっとした問い合わせなら他の人でも対応できるようになった」と現場にも良い効果が表れている。

豊洲では豊洲の良さがあり、チャンスがある。

社長自身もiPadをフル活用、どこにいても、リアルタイムで今日の売り上げや粗利率まで確認できる。帳場、事務所、そして営業担当者と社長のモバイル端末がクラウドシステム上でひとつにつながり、まさにリアルタイムの情報共有を実現した形だ。

同社は業務にてこ入れをしつつ、これからも変化する需要に沿った商売を展開したい考え。「市場移転により取扱量の減少を懸念していたが、豊洲では豊洲の良さがあり、チャンスがある」と渡辺社長。システムを通じた社内の業務効率化や情報共有の強化を通じ、既存の顧客との関係をより強固にしたい考えだ。